まず、現在地をひとつだけ押さえたい。
2024年の全国ゴルフ場延べ入場者数は、前年比2.30%減の4,848万1,410人。
物価高と円安の連鎖がプレー単価や移動費を押し上げ、ラウンド頻度が落ちた。
ここで伝えたいのは、ゴルフが嫌われたからではない点だ。
家計の余力が削られた結果として起きている。
では、その家計を長く痩せ細らせてきた根本は何か。
ずばり、それは「緊縮」である。
核心:緊縮は中立な常識ではなく、格差を固定する設計思想
国家の緊縮は「無駄を省き財政を健全にする当たり前の政策」と受け止められがちだが、実像はまったく違う。
労働者の賃金や公共支出を抑え、資産家の利潤と資産収益を厚くする力学を内蔵しているのだ。
景気が弱い局面で支出を絞れば、企業はコストを抑える方向に動き、賃上げは遅れ抑えられる。
家計は消費を減らし、需要はさらに縮む。
しかし、利潤や配当は守られやすく、労働分配は細る。
これが格差の土台になっているのだ。
100年前に仕上がった“設計図”
第一次世界大戦後の欧州で、緊縮は体系化された。
イギリスでは財政の引き締めを正解だと見せる理論が整えられ、イタリアでも同様の枠組みが広がった。
「経済は中立で科学だ」と国民に認識させることで、賃金抑制や支出削減はあたかも自然法則のように扱われた。
本来なら「誰の負担を増やし、誰の利益を守るか」が政治的判断となる。
だが、「経済は中立で科学」と思い込ませることで賃金抑制や支出削減は、「科学的に必然な自然法則」だと装えるのだ。
自然の法則だら反対の余地がない真理のように多くの国民には見えるだ。
その結果、労働者や市民の抵抗は弱まり、民主的な議論を経ずに緊縮政策が速やかに実行さる仕組みは完成した。
こうして重要な政治的争点は“脱政治化”され、格差を固定する制度が静かに根付いていったのだ。
その結果は明快で、労働生産性が伸びても賃金は追い付きにくくなり、余暇に回る予算が痩せていくばかりだ。
「脱政治」の正体:テクノクラシーが選ぶ優先順位
緊縮が優先される場面でよく持ち出されるのが「国の家計簿」論法だ。
しかし国家の予算は断じて家計簿ではなく、どこに資金を投じるかは本来政治の選択である。
教育・医療・社会保障・公共投資に厚みを持たせれば、将来の生産性や所得が高まり、家計の余力も戻る。
逆にこれらを削れば、短期的に見かけは整っても賃金や需要は弱まってしまう。
これは価値判断であり、政治の領域だ。
ところがテクノクラシーは、この判断を「科学的に避けられない結論」として処理してしまうのだ。
あたかも計算上の必然であるかのように見せかける。
これが“脱政治”の手法であり、結果的に格差を固定する仕組みを構築しているのだ。
家計簿の比喩が思考を縛る
「赤字は悪。黒字は善」――この単純な枠が、分配や将来投資の議論を窒息させる。
税と社会保障の設計、賃金の底上げ、雇用の安定といった課題が後景に退く。
消費税中心の負担構造
消費税は一般財源で逆進的だ。
実質賃金が伸びない局面で税負担が重くなれば、家計は余暇を削る。
余暇の削減はまっ先に出る症状だ。
“借金の総額”ばかりが強調される
国債残高の数字だけが独り歩きしがちだが、所得・資産・成長率・金利・需給バランスを伴った全体像で考えるべきだ。
支出の中身と効果を吟味し、民間に需要と所得をつなぐ設計を作る方が、長期の安定につながる。
バフェットの一言が示す現実
階級闘争は存在する。仕掛けているのは富裕層で、いまのところ勝っている。
バフェットによる、この一言が射抜いているのは、分配の結果ではなく、ルール設計の偏りだ。
労働分配が弱まり、資産からの収益が厚くなるほど、労働者の余暇の時間と予算は削られる。
2024年のゴルフ場入場者数減少は、その一断面にすぎない。
症状としてのゴルフ:数字を最小限だけ
指標 | 2023年 | 2024年 | 変化 |
---|---|---|---|
全国延べ入場者数 | 4,968万5,760人 | 4,848万1,410人 | -2.30% |
物価高と円安がプレー代・移動費・ギア価格に波及し、家計の余力が薄くなる。
だから減った――ここで話を終えると、原因が個人の節約に矮小化されてしまう。
実際は、長く続いた緊縮の下で賃金と分配が弱まり、余暇まで届く力が細っているだけなのである。
よくある反論に短く答える
「支出を増やすとインフレが暴走する」への反論
焦点は総量ではなく配分だ。
賃上げと公共投資を通じて供給力と所得を底上げし、ボトルネックを解く方向に資金を流す。
価格安定の目標と整合的に運営すれば、生活水準の回復と両立できる。
「国は家計のように倹約すべきだ」への反論
不況時に家計が倹約しても経済全体は縮む。
政府まで同じ行動を取れば需要は消える。
景気に応じて逆方向に動くのが財政の役割だ。
取り戻すべきもの:可処分所得と時間
格差を縮め、余暇を取り戻すために何を優先するか。
ここでは方向だけを明確に書く。
・賃金の底上げと安定雇用を軸に置く。
・教育・医療・子育て・地域交通など、生活の基盤に厚みを持たせる。
・家計の可処分所得を押し上げる減税・社会保険料調整を検討する。
・公共投資はボトルネック解消と生産性向上に直結させ、民間の投資・賃上げを誘発させる。
結果として余暇に回る予算と時間が増え、文化やスポーツ全体が息を吹き返す。
ゴルフもその一部だ。
結び:気づきは強い
緊縮は節度ではなく、分配を弱くする設計思想だ。
中立の顔をして、格差を固定する。
ここに気づく人が増えれば、議論の土台が変わる。
生活を良くする支出、将来を良くする投資、家計を楽にする分配へ。
2024年の数字は、社会が発するサインに過ぎない。
見え方を変えた人から、日常を取り戻せる。