2020東京オリンピック開催には、2兆円を要すると言われる。
一年間の延期によって、さらに金額は膨らむだろう。
組織委員会はその内訳を下記のように目論む。
諸々を考察すると各関係者が、中止に踏み切れない理由が見えてくる。
・テレビ放映料:約23%
・チケット売り上げ:約23%
・スポンサー契約料:約37%
・税金:約17%
逆算するとパートナー企業からの契約料7,400億円、TV放映権料4,600億円を見込んでいることになる。
高額なパートナーシップ料と超ド級のTV放映権料。
1984年のロサンゼルスオリンピックで、その先鞭をつけた革命児がいた。
オリンピックとIOCのピンチを救った男・ユベロスとは?
時は1978年5月に遡る。
アテネでIOCの総会が開催された。
1984年のオリンピック開催都市を決定するための総会だった。
立候補した都市は、アメリカ・ロサンゼルス市のみ。
しかも、申請書の内容は会場のIOC委員を困惑させるには十分過ぎた。
ロサンゼルス市は財政を保証せず、一切の責任も負わない。
そのように明記されていたのだ。
IOCにとっては、まさに前代未聞の申請書だった。
市当局に代わり立候補を主導したのは、民間の任意団体である南カリフォルニア・オリンピック委員会という組織。
公的資金を一切使わずに大会を開催、運営していく計画が示されていた。
予想だにしなかった報告にIOC委員たちは動揺する。
困惑し、動揺し、躊躇しても認める以外に選択肢はない。
開催に向けて何とか契約が交わされたのは、1979年3月まで待たねばならなかった。
1968年第19回メキシコシティー大会では、アパルトヘイト政策をとる南アフリカの出場に抗議し、アフリカ諸国がボイコット。
1972年第20回ミュンヘン大会は、パレスチナゲリラが選手村に侵入し、ユダヤ系選手を殺害。
凄惨なテロに見舞われた。
1976年第21回モントリオール五輪は、南アフリカ問題の再発、台湾の出場に抗議した中国が参加取りやめ。
さらにはオイルショックの影響もあり、この大会は巨額の赤字を残した。
オリンピックを崩壊寸前まで追いつめたのは、旧ソ連軍のアフガン侵攻を巡り1980年第22回モスクワ五輪での西側諸国ボイコット事件だった。
世界最高峰のスポーツイベントは、東側諸国の選手権と化していた。
観客の激減、スポンサーの撤退など問題が多発し、収支は厳しいものだった。
巨額の赤字を生み政治に翻弄されるオリンピックは、このころ世界中の都市から敬遠され、人気も凋落の危機に直面していたのだ。
そこに一人の救世主が現れる。
男はロサンゼルスオリンピック組織委員会委員長に就いた。
組織委員会は大会のスポンサー企業を大幅に絞り込み、1業種1社を基本としたパートナーシップに切り替える。
これが企業間の競争を煽り、高額な契約金で企業はパートナーシップに応じた。
一発入札を取り入れ、巨額のTV放映権料も得ることに成功した。
1セントの税金も使わずロサンゼルス大会は見事、成功裏に幕を閉じたのだった。
その名、ピーター・ヴィクター・ユベロス。
経営していた全米第2位の旅行会社を1400万ドルで売却し、組織委員長の職に専念した男。
オリンピックの運営概念を根底から覆したナイス・ガイだ。
しかし、ユベロスの方針は最初から順風満帆だったわけではない。
彼の前に両手を広げて立ちはだかった人もいた。
当時のIOC女性事務局長モニク・ベリリューがその人だった。
ベリリューはオリンピックへのビジネス導入に猛反発。
しかし、ユベロスはベリリューの反発にも逡巡することはなかった。
競技会場は1932年に行われた、第10回ロサンゼルス大会で使用された施設を徹底活用。
施設の新築は必要最小限に限定した。
さらに新設の必要が生じた場合は企業の協力を仰いで支出を削減、選手村は大学の学生寮を活用する徹底ぶり。
革命的なその運営方法は、後のオリンピックはもちろん、サッカーワルドカップの大会運営にも大きく影響を与えた。
ユベロスはオリンピック終了後、メジャーリーグ(MLB)に三顧の礼を持って迎えられ、第6代コミッショナーに就任する。
赤字を抱えたMLBを変革、財政再建を成し遂げ、名コミッショナーとして1989年まで任期を全うした。
1984年ロサンゼルス大会はカール・ルイスのオリンピックと言っても過言ではなかった。
陸上競技100M、200M、400Mリレー、走り幅跳びの4種目を制し、話題を独占した。
日本選手では柔道・山下泰裕が無差別級に出場。
2回戦で右足ふくらはぎに肉離れを起こしてしまう不運。
だが右足を引きずりながら不屈の闘志で決勝まで戦い、金メダルを獲得した。
大会後、アマチュアスポーツ選手としては初の国民栄誉賞を受賞している。
ユベロスの精神は、2020TOKYOに生かされているか?
1984年ロサンゼルス大会からオリンピックのパートナーシップが定着した。
現在、オリンピックの公認パートナーは3つの形態で構成されている。
(1)ワールドワイドオリンピックパートナー
(2〉東京2020オリンピックゴールドパートナー
(3)東京2020オリンピックオフィシャルパートナー
それぞれ契約金額と期間、権利行使の範囲等の内容がかなり違っている。
そして、(1)と(2)(3)では契約を結ぶ相手も変わってきます。
(1)ワールドワイドオリンピックパートナー
この契約は基本的に10年間と長く、世界中でパートナーとしての権利が行使できます。
つまり、世界中でオリンピックを利用した広告宣伝活動を展開する権利を保有するのです。
冠に『東京2020』がないのは、10年間で複数の五輪パートナーとなるからだ。
また、IOCとの契約締結となります。
日本からはTOYOTA、パナソニック、ブリジストンの3社が名を連ねる。
そして驚いたのはAirbnbが入っていること。
世界中で民泊の運営、斡旋業務をする新興企業ですね。
かなり儲かっているのでしょう。
けれども、今年はコロナの影響をまともに受け厳しいかな。
このクラスは、1業種1社の契約が厳しく守られている。
業界における世界的トップ企業としてのステータスを、しっかりとアピールできる仕組みです
パートナー料は、最低で年間30億円程度と推定されます。
自動車業界では世界初となったTOYOTAですが、こちらは破格で、パートナー契約料が10年間で2,000億円と言われています。
どんな契約内容で、どこがどう他社と違うのか?
詳細までは調べられませんでした。
このクラスには世界中から13社が参加しているが、契約条件は各社それぞれに違いがある。
その内容はトップシークレットだ。
ちなみにTOYOTAの年間広告費は総額4,000億円に達すると言われている。
年間200億円のパートナー料は年間告費の5%に相当。
果たしてこれが、多いのか少ないのか?
金額が大きすぎて判断ができませんね。
(2)東京2020オリンピックゴールドパートナー
こちらは、東京オリンピック組織委員会との契約になります。
契約期間は基本4年間で、当該オリンピックのみ対象となる。
オリンピックの公式商標などの権利行使は、日本国内に限定されます。
したがって、17社の大半は日本企業が占めている。
契約料金は年間約25億円と言われているが、契約内容によって各社に違いがあるようだ。
東京オリンピック組織委員会の公式コメントによるとゴールドパートナーからの契約料収入合計額は、目標としていた、1500億円を上回っているとのこと。
また、こちらのクラスは東京2020年大会から1業種1企業の縛りは撤廃されたようです。
より多くの企業からパートナー料を獲得するための変更と思われます。
(3)東京2020オリンピックオフィシャルパートナー
こちらも東京オリンピック組織委員会との契約で日本国内限定の権利行使。
32社がパートナーに名を連ねますが、ここでもやはり日本企業が圧倒的多数。
年間20億円程度の契約金額となるようです。
上位2つのクラスと違って、航空、鉄道、運送、新聞などの公共性の強い企業が目立ちます。
1年の延期によってオリンピックは新たな費用が発生すことは避けられない。
パトナー企業との契約に関する交渉は、これから年末にかけて本格化するという。
「ロサンゼルス方式が悪いのではないよ。
ロサンゼルスの方法を表面だけまねした人たちが、オリンピックの姿を変えてしまったんだ」
後年、オリンピックの商業利用を批判する声にユベロスは、そう答えている。
コロナ下で揺れるオリンピック開催。
中止すべきの声もかなりあるが、これほど莫大な金が動き利権に取り込まれたオリンピック。
1国の事情や判断では最早どうしようもない領域に踏み込んでしまっている。
コメント
[…] オリンピックの商業主義はどこで間違った?オリンピックの革命児、ユベロスはオリンピックの商業主義を批判する声にこう答えたという。 「ロサンゼルス方式が悪いのではないよ。 […]