ゴルフの力は凄い!
ある時は大企業の新社長誕生を、陰で演出することもあるのだ。
ゴルフの同伴者になると、ほぼ一日一緒だ。
相手のあらゆることが見えてしまう。
「ラウンドし、食事をし、風呂まで一緒に入る。だから二人の間が、その一日でグッと縮まることがある」
あるビジネスマンの言葉だ。
あなたにもそんな経験があるのではないだろうか。
当時の佐治忠信サントリー社長と新浪剛史ローソン社長の二人が、スリーハンドレッドクラブでラウンドした時が、まさにそうだったのではないだろうか。
新浪剛史新サントリー社長誕生のきっかけとなった、スリーハンドレッドクラブでの二人のラウンド。
高級接待コースの面目躍如と言えるだろう。
その一コマを紹介しよう。
スリーハンドレッドクラブのプレーが佐治信忠氏と新浪剛史氏の距離を縮めた!
もう10年以上も前のことだが、さわやかな秋の空気に包まれたスリーハンドレッドクラブに、佐治忠信サントリー社長と新浪剛史ローソン社長の姿があった。
他に同伴しているのは、日清食品ホールディングス安藤宏基社長と日本コカコーラ魚谷雅彦会長の二人だ。
注:肩書はすべて当時のものです。
気心の知れた経営者4人でゴルフを楽しむため、スリーハンドレッドクラブのメンバーである佐治氏がセットしたのだ。
このラウンドで佐治氏は、新浪氏のゴルフに改めて目を見張ったのだという。
新浪氏の何に対して、刮目したのか。
マナーが素晴らしかったのだ。
同伴者への気配りに怠りはなく、デボットもボールマークも他人の分まで直している。
ゴルフも上手だった。
260ヤードのロングドライブも放つが、グリーン周りの小技もなかなかだった。
新浪氏の落ち着きある振舞いと卓越した判断力が、佐治氏の心に深く刻まれることとなった。
新浪氏のキャディさんに対する接し方に、特に感じ入るものがあったようだ。
先輩である同伴者への気遣いと同じようにキャディさんにも接して、しかもさりげないのだから大したものだ。
佐治氏は霞ヶ関カンツリー俱楽部のメンバーでもある。
霞のような伝統ある名門コースは、どこもキャディさんを大切にする。
伝統的な名門コースではキャデイをぞんざいに扱ったら、メンバー失格の烙印を押されてしまうのだ。
地方では地元の名士や小金持ちが、キャディに暴言を吐いたり当たり散らすと、時折耳にする。
日本では、この点について勘違いしているゴルファが多く見られる。
プレーヤから見て、キャディは召使でもなく、僕でもない。
プレーを助けるパートナーなのだ。
ここが分かっていないゴルファが多いから困ってしまう。
伝統的な名門コースほど、そのあたりはメンバー間でしっかりと認識されている。
地方に限らず首都圏でも、キャディさんに威張り散らすゴルファが目立つ。
それ一つとってみても、日本を代表するような名門コースでは通用しないゴルファが、如何に多いかわかろうというもの。
いや、名門で通用するしないの問題でなく、人間性が疑われるのだけれど、本人は気付かないから実に不幸で寂しい。
さて、佐治氏と新浪氏の話に戻そう。
当時すでに60歳を超えていた佐治氏の頭には、『後継者』の三文字がちらついていた。
佐治氏も新浪氏も慶応大学出身であるから、経済界最強のOB会と言われる『三田会』の会員として、両者はすでに交流があった。
「ゴルフで一日一緒にラウンドすれば、その人の人間性がよく見える。人間関係を構築する重要なツールになり得る」
そのように言うビジネスマンは多い。
佐治氏はこの日のラウンドで、これまでの付き合いでは気づかなかった新浪氏の奥深い人間性に触れたのだった。
その気になれば、いつでも80台を出せるほどの腕前を持つゴルフ上級者の佐治氏だ。
特にアプローチには自信があった。
実は、この日から新浪ローソン社長への静かなるアプローチが始まっていたのだ。
そして、あの日のラウンドから約4年を経た2014年、ある人事が日本中に衝撃を与えた。
「ローソン社長の新浪剛史氏がサントリーの新社長に就任」
こんなニュースが、日本中を駆け巡ったのだ。
佐治氏の巧みで粘り強いアプローチが実を結んだのだった。
ゴルフで同伴すると、ほぼ一日、互いに顔を突き合わせることになる。
同伴者への気配り、キャディさんへの接し方は勿論だが、ラウンド中に起きる数々のトラブルショットへの対処の仕方にも、その人柄はよく表れるものだ。
そして同じテーブルで食事も一緒に摂る。
風呂場やロッカールームでは、プライバシーまで垣間見えることさえある。
相手の知られざる欠点が目についてしまうこともあるが、二人の距離がグッと縮まることも多い。
佐治氏と新浪氏のケースは間違いなく後者だろう。